パステルウィング 癒しのブログ

気楽なショートエッセイ風

新作童話『まりちゃん、笑って』

こんにちは!

パステルウィングことパステルン

癒しのブログへようこそ🌈✨☺️

 

今日は 2023.1.16 月曜日

週末は春のような暖かさでした。

皆さまのお住まいの地域はいかがでしたか?

 

さて、今日は、パステルンが母との思い出を、童話に書き下ろした小品を一つご紹介します。

近いうち、You Tubeチャンネル「パステルウィングの童話」に、いつものように可愛いイラストや音楽と私の朗読で、アップしたいと思います🌷✨🍀

 

 

パステルウィング作 

童話 『まりちゃん、笑って』 2023.1.14

 

その日の朝、まりのは目覚めるとすぐに、年老いて認知症になり、寝たきりのお母さんのベッドのそばに行き、顔をのぞき込みました。

 

「おか〜あさん。起きてたの? おはよう! 元気? 今日もかっわいいねえ。」

母のことを、心から可愛く思えたまりのは、にっこりほほえんでそう言うと、 お母さんはベッドの上で、嬉しそうに笑みを浮かべながら、

 

「まりちゃん、ゆうべ、どこで寝たの? 元気?」 「うわー!お母さんたら、かわいい! まりのは2階のお部屋で寝たのよ。」

 

すると、まりちゃんの目を見つめながら、 「美味しかったぁ」と母。

(ん? それって夕べ、歯のないお母さんがゴッくんできるように、まりのが作った、やわらかくしたご飯のこと? それとも明け方の夢の中で食べた、ごちそうのこと‥かな?)

どっちにしろ、まりのは母の「美味しかったぁ」という言葉がうれしかったの。

「また、美味しいものを作るからね。おかあさん。」

 

記憶がすぐに飛んでしまう、まりのの母は、ときおり頭がシャンとするようで、短い会話ができたり、自分の意思を言葉で伝えたりできる日もあるけれど、波があるみたい。 まりののことを、誰だかわからないときもあるの。

 

さて、ここで五十年前にタイ厶スリップ!

 

あら~? なにやら楽しげに歌いながら、自転車に乗る母娘の姿が見えます。 若く美しい顔立ちの母親が、ころころぽっちゃりとした3歳くらいの女の子を、自転車に乗せて、どうやらお風呂屋さんに向かって走っているらしいわ。

なんて愉快な歌声でしょう!

 

「ま〜りちゃん!」

「はぁ〜い!」

「おりこうちゃん!」

「はぁ〜い!」

「め〜んこちゃん!」

「はぁ〜い!」

「くしゃいむしゅめ(おもらしするむすめ)」

「はぁ〜い!」

するとお母さんが、小さな娘の足を指さして、 「ま〜りちゃん、これなぁに?」

「だいこ~ん!(大根足のこと)」

 

あらあら、美しいお母さまったら。愛娘に、ヘんてこりんなことを仕込んじゃって‥

そんなたわいのない会話に、軽快なメロディーをつけて、無邪気な親子が、キャッ キャッと笑いながら通り過ぎて行くのでした。

 

さて、そのまりちゃん。 5歳になったころ、お友だちから、「こぶたちゃん」と、からかわれるようになりました。

泣きべそをかきながら、まりちゃんがお母さんの腕の中に飛び込むと、 お母さんは、まりちゃんの髪を優しくなでながら言いました。

 

「まりちゃんの笑顔はすっごく可愛いわよ。 だから、いつでもにこにこ笑顔でいなさいね。」

まりちゃんは、うるんだ瞳でお母さんを見上げて、こくんと小さくうなずきます。

 

それからまりちゃんは、物心つくころに、おとなの女の人にこんなことを言われたの。

「あなたのお母さん、美人さんねぇ。‥‥まりのちゃんは、お父さんに似たのね。」

まりちゃんは、お父さんのことが大好きだけれど、この何気ない言葉に、とても傷ついたの。

 

「お母さんはテレビに出てくる女優さんみたいにキレイで、スタイルもいいし、頭も良いし、器用で何でも上手。なのに、まりのは‥‥」

 

  それから、まりちゃんは成長して、結婚もし、子供を育てて、気がつくと、あっという間に50代の年齡になっていました。 悲しいこと、苦しいこと、辛いこと、沢山たくさん経験しました。嬉しいこと、楽しいことも沢山ありました。

 

そして、ふと気がつくと、 まりちゃんの笑顔が、いつも周りの人を笑顔にしていたことに気づいたの。

 

年老いて、だんだん幼子のようになっていく、あの美しかった母が、ベッドの上で顔をしかめているときも、まりちゃんの優しい笑顔につられるように、お母さんはなんともチャーミングな、穏やかな笑みを浮かべるのでした。

 

「お母さん。

私を産んでくれて、 育ててくれて、ありがとう。

笑顔でいなさいと言ってくれて、 ほんとうに、ありがとう!

あれはきっと、これといって取りえのないまりのが、豊かに生きていくために、お母さんがプレゼンしてくれた『魔法のことば』だったのね。

 

わたし、これからも、しわくちゃのおばあちゃんになっても、屈托のない笑顔を忘れずに、生きていきます。

今日のお母さんの笑顔、すっごく可愛いわよ!

ありがとう! おか〜ぁさん🌷」

 

まりのは、そう言って、小さくなったお母さんのすべすべの頰に、自分の頰をそ〜っとあてて、嬉しそうに、すりすりするのでした。               おわり